勿忘草は英語で“Forget-me-not”−まさしく「私を忘れないで」です。
でもこの花が勿忘草と呼ばれるようになったのはイギリスではなく悲しい恋にまつわるドイツの伝説からです。
中世のドイツ。騎士ルドルフは恋人のベルダとともにドナウ川のほとりを散歩していました。ベルダは川岸に咲いていた青い花に目をとめ、それに気付いたルドルフは彼女のために花を摘もうと岸に近づきますが誤って川に落ちてしまいました。川の流れは思いのほか急であっという間に激流にのみ込まれてしまいます。もう助からないと悟ったルドルフは最後の力を振り絞り、ベルダに花を投げ与えました。「僕のことを忘れないで」そう叫びながら。一人残ったベルダはルドルフとの約束を守り生涯彼一人を想い続け、その証として髪に勿忘草の青い花を飾り続けたそうです。
英語の“Forget-me-not”は語源であるドイツ語の“Vergiss mein nicht”の直訳ですが、
世界中ほとんどの国の言語で同じ意味あいの言葉が当てはめられています−私を忘れないで−。
花言葉そのままにですが勿忘草にはもうひとつ花言葉があります。
それは「真実の愛」です。失った恋人のことを生涯想い続け、純潔を守りぬいた女性を讃えているのです。
17世紀オスマン帝国(現代のトルコ)の宮廷で始まったとされる花言葉。西欧諸国に紹介されるようになったのは18世紀に入ってからですが本格的に大流行をしたのは19世紀、ヴィクトリア朝のイギリスです。
1818年に世界初となる花言葉辞典がフランスで発刊されると、少し遅れてイギリスでも編纂されるようになりました。イギリスでは花言葉の研究が盛んに行われ、1856年(日本がまだ江戸時代の頃です)に出版された花言葉辞典には何と700を超える花言葉が一花ごとの挿絵とともに紹介されていました。
当時の花言葉は今では忘れられてしまったものもありますが、花言葉というそれぞれ固有の意味を持つ花はセンチメンタルジュエリーのモチーフとして「思い」(メッセージ)を託すために重要な役割をもつようになりました。
今日に残るヴィクトリア朝のアンティークジュエリーで勿忘草をはじめとする花を描いた作品に心のこもった優しくて繊細なものが多いのはそのためです。
私を忘れないで−その言葉はもう届かずとも心の中にひそやかに住んでいる忘れられない人。誰の心にもいることと思います。
たとえそれがもう恋と呼べるものではないとしても・・・。
もちろん僕にもいます。むこうはもう僕のことなんて忘れていると思いますが・・・。
忘れられない誰かがいる。その誰かを想う心を持ち続ける。
そんな人がい続けてくれる限り、世界がどんなに変わっても勿忘草のアンティークジュエリーは受け継がれ続けていく。そう僕は信じています。
イギリス(バーミンガム)、1866年
サイズは10.5号です
18金ではないのですが可憐な勿忘草に惹かれて手に入れました
9金であっても作り手の腕次第で引けを取らない輝きを造りだすことができる
この指輪はそのことを証明してくれています